札幌家庭裁判所 平成11年(少)1722号 決定 1999年11月01日
少年 M・S(昭和56.7.8生)
主文
この事件については、少年を保護処分に付さない。
理由
(本件送致事実の概要)
本件送致事実の要旨は、少年は、平成11年9月24日午前3時35分ころ、札幌市○○区○○×丁目○×番○○○×丁目店北側路上において、A所有の普通乗用自動車(登録番号札幌×××せ×××号)1台(時価200万円相当)を窃取したというものである。
(本件の経過について)
1 送致事実と送致記録
送致記録中の関係各証拠、特に、司法警察員作成の緊急逮捕手続書、同実況見分調書、同窃盗(自動車盗)被疑事件捜査報告書(容疑者の現場引き当て結果について)、同窃盗被疑事件捜査報告書(被疑者の供述に対する裏付け捜査結果について)、A作成の被害届、同被害品確認書、A及びBの司法警察員に対する各供述調書並びに少年の司法警察員に対する弁解録取書、司法巡査に対する供述調書、平成11年9月25日付(3丁のもの)及び同月28日付司法警察員に対する各供述調書によれば、以下の事実が認められた。少年は、平成11年9月24日午後3時35分ころ、本件自動車を運転していたところ、警察官に当該自動車が盗難車両であることを看破された。少年は、警察官から追尾を受けていたところ、同日午後3時50分、道路工事中の現場に当該自動車を突っ込ませ、同車両は走行不能状態になった。その現場において、少年は、警察官から当該車両の入手経路を聴かれた際、自己が窃取した旨供述した。その後、少年は、上記送致事実記載の盗難現場へ案内し、当該車両はエンジンキーの付いた状態で停止していたなど、犯行状況につき、被害者の説明と符合する内容の供述をした。捜査段階において、少年は、自宅アパートから先輩のC方に遊びに行こうとし、本件現場に通りがかった際、当該車両を見つけて窃取した旨供述していた。また、Bは、少年方のアパートにいたところ、同日午前5時ころ、少年が帰宅し、そのとき、少年が「○○○で車を盗んできた。」というようなことを言っていた旨供述していた。
これらを総合すれば、本件送致事実は、一応認定することができた。
2 事実調べの実施
しかしながら、少年は、少年鑑別所入所後、家庭裁判所調査官らに対し、当該自動車窃取の事実を全面的に否認し、当該車両は、事件当日にCから預かったもので、同人が当該車両を駐車していた場所まで友人のDとともに赴いた旨供述するに至った。そのため、当裁判所は、第1回審判(平成11年10月20日)において、本人質問並びにD、B及びCに対する証人尋問を施行した。
(当裁判所の判断)
1 当審判廷における少年の供述
少年の供述の要旨は、以下のとおりである。これまで虚偽の供述をしていたのは、Cをかばう気持ちがあった。本当のことを話そうと思ったのは、隠し続けることは、周囲の者にも自分自身にもよくないと考えたためである。9月24日の午前3時から4時ころ、Cから電話があり、「○○公園」まで来るように言われた。少年は、Dに電話して、迎えに来てもらい、同人が運転するオートバイに2人乗りをして、同所へ行った。そこには、Cのほか3人の男がいた。Cは、自動車を盗んできたことをほのめかし、少年に対し、自動車のある場所まで来るように言った。少年は、Dの運転するオートバイで、Cたち4名は自動車(マキシマ)に乗ってその場所へ行った。現場に着くと、Dはかかわり合いになりたくなかったので、少年に共に帰るように誘ってきたが、少年は、それを断り、D一人がその現場を立ち去った。Cは、「×丁目のパチンコ屋のそばのコンビニに止まっていた車を盗んだ。」と言っていた。そして、少年に対し、その車を預かってほしいと言った。それは、少年のアパートの1階が車庫になっているので、隠すのに都合がいいと考えたのだと思う。そこから、少年は、Cを乗せて、本件自動車を運転して、少年宅のアパートへ行った。車庫入れは、Cにしてもらい、少年が車を預かることになった。Cは、車と鍵を置いて帰っていった。窃盗の現場は、Cの話からどこの店かはわかった。停車場所は自分の経験などから想像して店の前の道路だと考え、引き当たりの際に説明した。エンジンをかけたまま停止していたことは、Cから聞いていた。
2 当審判廷における各証人の供述
証人Dは、本件当時ころ、少年とともにCに連れられて、車を止めてある場所に行ったようなことはないと、少年の主張を否定する旨の供述をした。
証人Bは、平成11年9月24日の深夜、少年とともに名前のわからない先輩の家へ行ったこと、そこにだれかから少年に電話が入り少年が出かけていったこと、その後証人は少年のアパートへ帰ったこと、早朝、少年、C他3名が本件自動車ともう1台の車で戻ってきたこと、Cが帰った後少年からマジェスタ(本件自動車)はC君からもらったと聞いたこと、警察の取調べの中で、「車を盗んできた。」というようなことを少年から聞いたと供述したのは、Cのことが発覚すると困ると思ったのでうそをついたことなどを供述した。
証人Cは、証人が、約1か月前、○○×丁目の○○○で車を盗み、当日それを少年に渡したことがあること、その際、少年に対し、その車を盗んだことや盗んだ場所について話したこと、少年のアパートの車庫に本件自動車を入れ、少年に車の鍵を渡したこと、少年のアパートは1階が車庫、2階が部屋になっており、人目につかないと思ったことなどを供述した。
3 Cから少年に本件自動車が渡された経緯については、当審判廷における少年の供述及び各証人の供述の間にそごがあるものの、上記のとおり、平成11年9月24日早朝、少年方アパート車庫において、Cから少年に対し、本件自動車が渡されたという点では、少年、B及びCの各供述は符合している。また、各供述のうち、特に、少年の供述は、全体として、内容が具体的かつ自然であり、捜査段階における供述調書の内容と比べても、その信用性は高いものと認められる。さらに、証人Cの供述のうち、自分が自動車を盗み、少年に渡した旨の供述部分は、自己の犯罪を自認する内容をあえて述べているものであり、その信用性は高いと認められる。これらの証拠関係を総合考慮すれば、送致事実にかかる少年が当該日時、場所において、本件自動車を窃取したとの事実は認められない。
しかしながら、他方で、当審判廷における各供述及び送致記録の関係各証拠によれば、以下の事実(盗品等保管罪)が認められる。
少年は、平成11年9月24日、札幌市○○区○□××丁目×番○○×××号室少年方車庫内において、Cが他から窃取してきた普通乗用自動車(登録番号札幌×××せ×××号)1台(時価200万円相当)を、それが盗品であることを知りながら、同人から依頼を受けて、同人のために少年方の車庫内に預かり、もって、盗品を保管したものである。
(法令の適用)
刑法256条2項
(処遇の理由)
少年は、先輩が盗んできたものであることを承知の上で本件自動車を預かっていること、その当日には無免許でその自動車を運転した上、事故を起こして自動車を損傷させていること、本件は平成11年5月14日に中等少年院を仮退院した後の再非行であること、仮退院後も従前の交友関係を断ち切ることができず、それが本件非行の原因となっていること等からみて、少年の問題性は軽視できないが、今後、東京在住の母方伯父2名が勤務する会社において、少年を稼働させ、従業員寮において伯父2名が寝食を共にしながら監護することが可能な状況にあり、その伯父が審判廷において、少年の監督を誓い、少年も意欲を示していること、今回、少年鑑別所において、窃盗犯人である先輩の名前を明かし、真実を供述するに至ったことは、少年が過去の交友関係と決別するきっかけとなりうるものであること、その他少年の性格及び行動傾向などにかんがみると、少年に対しては、在宅での処遇を選択するのが相当である。もっとも、少年は、現在、中等少年院を仮退院し、保護観察(犯罪者予防更生法33条1項2号)中であることから、本件について、特に新たな処分をするまでの必要は認められない。
よって、少年法23条2項により少年を保護処分に付さないこととし、主文のとおり決定する。
(裁判官 伊丹恭)